【事例から学ぶ】移転価格税制におけるホンダ訴訟

この記事は2021年1月25日に書かれました。


\\移転価格について詳しくは以下の記事をご覧ください//
海外進出成功のポイント:移転価格とは?税務問題にならない為の考え方

この訴訟は、大手自動車メーカーであるホンダとブラジル子会社との間で行った取引をめぐり、国から受けた課税処分の取り消しを求めたものです。
2004年8月にホンダが当局へ異議申し立てをしてから一審、二審と10年以上の月日を経て、2015年5月、75億円の課税取り消しが確定し、ホンダの勝訴に終わりました。

■訴訟の概要

ホンダはブラジル・アマゾナス州に子会社(以下HDA社等:注1)をもち、完成された自動二輪車や自動二輪車の部品の売買取引、技術支援の役務提供取引等を行っていました。

アマゾナス州にはマナウス自由貿易地域(マナウスフリーゾーン)が設定されており、ここに進出する企業には各種租税の減免措置がとられています。これをマナウス税恩典利益といい、HDA社等の各事業年度の営業利益合計額のうち約59%がマナウス税恩典にかかる利益だったことが報告されています。

注1:ホンダは自動二輪車の製造販売を行う現地法人のHDA社、並びにその連結子会社のHCA社・HTA社の各発行済株式総数の99%超を間接に保有

ホンダは、1997年4月1日〜2002年3月31日におけるHDA社等との取引で受けた支払いの対価を収益額に算入して確定申告を行ったところ、国税庁は期間中に得た利益のうち、約254億円は親会社であるホンダから部品を格安で購入したことなどで得られたと判断。本来はホンダの利益とすべきだとして「移転価格税制」を適用して申告漏れを指摘し、およそ75億円の追加徴税処分にしました。

これを受けてホンダは東京国税庁に異議申立をしましたが棄却され、2011年に課税処分の取り消しを求めて東京地裁に提訴しました。

■この訴訟の争点

最大の争点となったのは「移転価格税制」を適用し、国税庁が追加徴税額を算出する際に利用した手法が適切であったかどうか。
基本的利益を算出する際は比較対象取引を選定しますが、以下のような点に考慮する必要があるとされています。

・棚卸資産の種類、役務の内容等
・売手又は買手の果たす機能
・契約条件
・市場の状況
・売手又は買手の事業戦略

今回の判決では、HDA社等がマナウスフリーゾーンに所在し、ブラジル国内で税制上の優遇を受けていることが重視され、「営業利益の59%が税優遇によるもので、影響が大きい」と指摘しました。
さらに、国税庁は基本的利益を算出する際の比較対象に、ブラジル国内の別の地域に所在する、税制上の優遇を受けていない同種企業を利用していたため、追加徴税額を算出した国税庁の手法を誤りであるとし「移転価格税制による課税はできない」と結論付けられました。

■ホンダ訴訟から学ぶ

2004年にホンダが異議申立を行ってから、判決の確定が出るまで10年以上を費やしました。訴訟にかかる弁護士や会計士など外部の専門家に支払ったコストは計り知れません。

2015年、経産省は「新興国における税務人材の現状と課税事案への対応に関する調査」と題した報告書を公表しました。この報告書では、海外に現地法人をもつ日本企業4,286社に対して実施した、課税問題に対する実態アンケート調査の結果もまとめられています(うち、回答を得られたのは1,081社)。

それによると、二重課税が生じた事案が145件あり、そのうち移転価格税制関係が46.2%と約半数を占めていることが判明しました。

新興国では、自国への投資を呼び込むために様々な優遇税制を設けていることも多く、優遇税制が営業利益へ大きく影響している場合は特に注意が必要です。
日本だけでなく進出国における移転価格税制や税務執行状況を十分に把握し、海外関係会社取引における移転価格の妥当性を立証し、それを文書化するなど、税金リスクに対する事前の対策が重要となります。


参考:
『移転価格税制に関する裁判例の検討–東京地裁平成26年8月28日を題材に–』
「移転価格リスクと向き合う⑧ホンダ、移転価格裁判で勝訴確定」
「移転価格リスクと向き合う⑨経産省 新興国における課税事案への対応等を公表」

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