海外進出の成功のポイントとして、前回に引き続き、二重課税のリスクを減らし適切に投資回収をするために必要となる「移転価格ポリシーの設定」をご説明します。
\\前回記事はこちらからご覧ください//
海外進出成功のポイント:移転価格とは?税務問題にならない為の考え方
移転価格ポリシーとは、海外子会社との取引価格設定の基本方針です。「海外子会社との取引価格をこのように取り決めています。」と説明するためのルールと考えてください。
作成した移転価格ポリシーに基づいて海外子会社との取引価格の設定・運用を行っていれば、取引の実績としても移転価格税制上問題がなくなり、移転価格での税務調査のリスクが減ります。
移転価格税制の基本ルール
移転価格税制は国際課税の一種で、それぞれの国で法制度化されているのですが、重要な部分については根本的な考え方は概ね同じです。
これは、国際機関である経済開発協力機構(以下、OECD)の加盟国であるかどうかに関わらず、OECDが作成した「移転価格ガイドライン」に準拠する形で、各国政府が国内移転価格税制の整備をした背景があるためです。
よって、「OECD移転価格ガイドライン」に沿って移転価格ポリシーを決めて、該当国用に調整することが基本となります。
OECD移転価格ガイドライン
OECDは、市場主義を原則に経済成長をベースとして国際経済全般について協議することを目的とした国際機関です。加盟国は欧米諸国を始めとして、日本を含む37か国となっています。
OECDの「移転価格ガイドライン」は、適切に各国の課税権を配分し、二重課税を回避することを目的としています。具体的には、移転価格の算定方法及び移転価格課税問題の解決方法を示し、税務当局間又は税務当局と多国籍企業との間の紛争を最小化し、企業活動の円滑化に資することを意図しています。
(財務省:https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/177.htm より)
移転価格ポリシーで決めること
移転価格ポリシー設定のステップは以下の通りです。
1. 移転価格税制の対象となる関連者間取引の特定する。:製品取引、部品取引、ロイヤリティ取引、役務提供取引、金融取引など
2. 親会社と子会社でどのような役割分担や費用負担等を行うかを整理する。:機能・リスク分析
3. 事実関係に基づいて、最適な独立企業間価格算定方法を選定する。:OECDガイドラインで認められた方法は以下の通りです。
・ 独立価格批准法 (CUP)
・ 再販売価格基準 (RP)
・ 原価基準法 (CP)
・ 取引単位営業利益法 (TNMM)
・ 利益分割法 (PS)
・ 比較利益分割法
・ 寄与度利益分割法
・ 残余利益分割法
・ ディスカウント・キャッシュフロー法 (DCF)
4. 移転価格算定方法に沿って関連者間取引における独立企業間価格の移転価格ポリシーを決める。
移転価格ポリシーと移転価格文書の違い
移転価格ポリシーと移転価格文書を混同している方が多いと思います。
移転価格ポリシーの見直しの必要性:
必ずしも移転価格ポリシー通りに取引価格が決定されるとは限らない
移転価格ポリシーは一度作成すれば、移転価格リスクが減るというわけではありません。
事業をしている間に、ビジネス環境の変化によって、ビジネスモデルや収益性が変わり、事前に設定されたポリシー通りに取引価格が決定されないことが起こるからです。特定の年度の特定の取引に関しては、移転価格ポリシーとは別の方法で取引価格を決定することもあり得ます。
例えば、ロイヤリティですが、その計算に開発費が含まれていたとします。どれくらいの台数を何年で売るという前提で、かかった開発費を回収するには売上に対し5%のロイヤルティが必要と計算したとします。これはコストアプローチといわれる方法ですが、もとの開発費を回収した後もまだ同じロイヤリティ率を払っていたとしますと、移転価格文書で妥当性が説明できなくなります。
移転価格ポリシーは、必ずしも移転価格文書上の検証方法と整合しないのが現実ではありますが、移転価格ポリシーに基づいて海外関連者間の取引価格の設定・運用を行っていれば、取引の実績としても移転価格税制上問題がない結果となることが理想なのです。
そのため、移転価格ポリシーは移転価格文書の検証方法と整合性が取れるように、移転価格ポリシーを定期的に見直しすることをお勧めします。
移転価格文書の作成は毎年行いますが、それに対して移転価格ポリシーは毎年変更する必要はありませんが、数年に1度は見直しを行うことをお勧めします。
移転価格ポリシーおよび移転価格文書の作成は今や海外ビジネスをする際にはコンプライアンスとして必須の作業となっています。移転価格ポリシーの作成は、専門性が強いため、特に最初の設定の際には専門家の力を借りる必要があるかもしれません。
【この記事を書いた人】
濱田幸子
20年以上世界4大会計事務所の1つアーンストアンドヤング(EY)のジャカルタ事務所のエグゼキュティブダイレクターとして、ジャパンデスクを率い、日系企業にアドバイザリーサービスを提供。またジャカルタジャパンクラブで、税務・会計カウンセラー、及び課税委員会の専門員を務め、日系企業の税務問題に関わってきた。現在は日本在住。海外滞在歴は30年、渡航国はアジア、欧州、北米の38か国、480都市以上に及ぶ。 国際基督教大学大学卒。英国マンチェスタービジネススクールでMBA取得。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。