前回の記事では、インドネシアで成功した日本の外食産業の例として丸亀製麺を取り上げました。
丸亀製麺は、インドネシア進出のためにオリジナル商品を開発し、うどんの硬さや長さ、揚げ物の種類など様々な工夫をすることで、インドネシアの人々に受け入れられる工夫をしています。
海外で製品やサービスが受け入れられるよう、各国の規格・規制に準じた製品・サービスを提供することはもちろんのこと、進出先の生活習慣や嗜好にマッチした製品・サービスを展開する必要があるということがよく反映されている事例でした。
海外向けの商品開発は、食品に関して特に顕著です。それでは、どのように現地の消費者ニーズを掴む商品開発ができるのでしょうか?今回は味の素と日清食品の例をみてみましょう。
味の素がタイ王国で行った『味作り』
味の素は、現地の嗜好に合うおいしさと、栄養改善に貢献する製品・サービスを提供するというグローバル展開をしています。
”味の素グループは、「おいしく食べて健康づくり」という創業の志を現在まで受け継ぎ、世界各地で事業を展開してきました。各国・地域にある食の伝統や価値観、多様な嗜好、食へのニーズを理解・尊重し、各地で最適な製品を開発・販売しています。
また、各地で異なる栄養課題の解決を目指し、手に入れやすい食材や定番メニューを活用して、栄養バランスが良いメニューの提案を行っています。”(味の素のホームページより)
具体的には、味の素は海外事業のキーとして『見つけ、創る力』をあげています。『見つけ、創る力』は、各国の食文化を独自の手法で分析し、各国で「おいしさのNo.1」となることを目指しています。そのために、基礎研究は日本、R&Dは現地で行い、味作りは現地に任せています。
社員によるインタビューなどにより、現地の家庭での調理方法や嗜好性を調べ、食習慣を研究し、現地の嗜好に合った製品の開発を進め、その結果、国や地域ごとに違うブランドで販売するといった、現地に適したビジネスを展開しているのです。
それでは、特に顕著なタイでの成功例を見てみましょう。
味の素がタイに会社を設立したのは1960年です。英調査会社のユーロモニターによれば、タイにおける「調味料類・ソース・ドレッシング」で25%以上とトップシェアをもち、競合であるユニリーバの約8%を遥かに凌いでいます。タイ味の素は、年間売り上げ88,805百万円(2019年)を誇る、海外売り上げ全体の約4割を占める稼ぎ頭です。
進出当初は「味の素」を広め、その後市場の成長とともに、現地食文化を支援する鶏肉ベースの風味調味料「ロッ ディ」、日本の「CookDo」のようなメニュー用調味料「ロッディメニュー」、液体調味料「タクミアジ」、即席めん「ヤムヤム」など、現地のニーズに合わせた商品を次々と展開していました。そして、現地で市場との相互作用から商品開発された成功事例が『Birdy(バー ディー)』です。1993年に発売したBirdyは、タイの缶コーヒー市場でシェア7割と圧倒的な売り上げを誇っています。
Birdyはタイ人社員の提案をもとに開発されました。そして販売戦略も、日本とは全く異なっています。
まず味については、Birdyは日本人の好みより圧倒的に甘く作られています。そして主な販売場所はガソリンスタンドです。これは猛暑の中でトラックを運転するドライバーが、Birdyを眠気さましの栄養ドリンクとして好んだからです。
味の素は、タイの人々の生活にあうような販売方法で缶コーヒー市場を開拓したのです。今では缶コーヒーのことをBirdyと呼ぶほどタイで根付いた飲み物となっています。
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日清食品|カップヌードルが世界で400億食売れた理由
日清食品のカップヌードルといえば、NHK連続テレビ小説「まんぷく」のモデルにもなっていますが、最も海外展開に成功した日本の食品といっても過言ではありません。
カップヌードルは1973年にアメリカで発売が開始され、その後ブラジル、シンガポール、香港、インド、オランダ、ドイツ、タイへと展開され、今では世界80か国以上の国と地域で販売されています。世界累計販売食数は「400億食」を超えています。
カップヌードルの海外展開の成功の一つの理由が「多様性」です。現地の人々の好みに合わせ、麺やスープの味を調整し、各国の食文化を取り入れて開発しているのが特徴です。現地の名産品や名物を取り入れた「ご当地ヌードル」も発売しています。
日清は商品開発の方法として、現地に住む消費者を招いて商品評価をしてもらい、そのフィードバックを反映した上で最終的に商品を完成することをあげています。
その結果として、欧米は麺を啜る習慣がないため、麺の長さを日本のカップヌードルよりも短くしています。気温が高いインドでは熱々のものが好まれないため、スープがないカップ焼きそばのようなスタイルに変えています。タイでは食べごたえを重視するため長い麺を採用したり、インドネシアではイスラム教徒が多いため豚由来の原料を使わないというような、各国の食文化を考慮した商品開発を行ってきました。
参考として、各国で販売されているフレーバーをまとめた図をご覧ください。
海外市場調査と商品開発|まとめ
今回は海外に進出する際に、進出先の生活習慣や嗜好にマッチした製品・サービスの展開するために商品開発に力を入れている会社として味の素と日清食品を例としてみてきました。海外進出をする際の商品開発方法の参考となると思います。
参考:【日清食品】カップヌードルの世界秘話!アメリカは麺が短く、そしてインドは…
【この記事を書いた人】
濱田幸子
20年以上世界4大会計事務所の1つアーンストアンドヤング(EY)のジャカルタ事務所のエグゼキュティブダイレクターとして、ジャパンデスクを率い、日系企業にアドバイザリーサービスを提供。またジャカルタジャパンクラブで、税務・会計カウンセラー、及び課税委員会の専門員を務め、日系企業の税務問題に関わってきた。現在は日本在住。海外滞在歴は30年、渡航国はアジア、欧州、北米の38か国、480都市以上に及ぶ。 国際基督教大学大学卒。英国マンチェスタービジネススクールでMBA取得。
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