- 2021-8-18
- ダイバーシティ, 海外進出
- テストマーケティング
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シャトレーゼという会社を知っていますか?
シャトレーゼは、今東南アジアで急速に店舗数を増やしている日本のケーキ屋です。日本から直輸入であるにもかかわらず手ごろな価格で食べられる、美味しくて洗練された生菓子が人気を集めています。
今回は、大手企業にはできない逆転の発想で東南アジアで躍進する、山梨県甲府市に本社を置く生菓子メーカー「シャトレーゼ」をご紹介します。
この記事の目次
インドネシアに進出した「シャトレーゼ」
私がシャトレーゼの名前を初めて見たのは、ジャカルタ中心部にある高級モール『スナヤン・シティ』です。「日本のお菓子屋さんがもうすぐ来ます」とシャッターに書かれているのをみて、甘さ控えめのケーキが少ないジャカルタにして、楽しみに待っていました。そして開店した店が、Chateraise (シャトレーゼ)でした。
店には日本直輸入と書かれていて、ショーケースに沢山の種類のケーキが並んでいました。シュークリームやストロベリーショートケーキなどが美味しく、とても嬉しかったのを覚えています。現地の人たちにも人気があり、他の高級モールにも次々と店舗が増えていきました。
しかし、私はシャトレーゼを日本で見たことがありませんでした。調べてみると、日本の都市部には店舗がないことがわかりました。どおりで見たことがない訳です。山梨の工場で作ったケーキを直営店に届けて、更に海外にも直送することで、安く美味しいケーキを販売しているビジネスモデルでした。
続いて、山梨のこのケーキ屋が世界に進出して成功している実例をみていきましょう。
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アジア進出で成功したシャトレーゼの成長
沿革:大手ができないことをやる(逆転の発想)
シャトレーゼホールディングスの創業は1954年です。今川焼き風のお菓子「甘太郎」の店舗を山梨県甲府市に出店しました。温かい作り立ての甘太郎は、夏になると売れ行きが落ちるため、夏にも売れるアイスクリームの事業を開始しました。しかし、全国に販売ネットワークがある大手メーカーと競うことができず、それならば「大手ができないことをやろう」と考えた結果が、生菓子の製造でした。当時、大手メーカーは計画生産のため、痛みやすい生菓子の製造はしていませんでした。
1967年に低コストで衛生的なシュークリーム製造に乗り出し、社名をシャトレーゼに変更しました。アイスクリームで培った生産技術で安価で売り出し、1日50万個売れる大ヒット商品となりました。
1985年には工場直売店を甲府市にオープンし、連日行列のできる店となりました。そして1986年、千葉県にフランチャイズ1号店となる工場直売店をオープンしました。これを皮切りに、全国からフランチャイズ出店の申し込みが相次ぎ、郊外型フランチャイズ店として全国展開が進みました。
そして、1994年には白州工場を稼働。契約農場から素材を調達し自社工場で生産、全国の直売店に専用便で配達し販売する。この一連の流れを一環して行う「ファーム・ファクトリー」という独自のサプライチェーンを築きました。
生菓子は日持ちしないため、店で作って売ることが一般的です。そのため生菓子を大量生産するというシャトレーゼの仕組みは、大手にも小売店もできない極めて稀なモデルです。
創業以来、「おいしいものを、お値打ち価格で」をモットーに、店舗数は国内で556店舗で菓子の製造小売としては国内最大級のメーカーとなりました。(2021年1月現在)
海外進出:テストマーケティングを実施
シャトレーゼの快進撃も、2010年代前半には日本市場での成長にブレーキがかかりました。これは日本の少子高齢化が原因で、今後の成長戦略として海外展開を開始する必要性がでました。
シャトレーゼは、海外進出においても、日本で成功した逆転の発想で事業展開をしていきました。
日本の食品は各国共に評価が高く、日本のパティシエも進出しています。しかし、高温多湿の東南アジアでは牛乳、卵や生クリームなど良質な原料が手に入りにくく、その上手作りするために価格を高くせざるを得ない状況でした。
この状況下、シャトレーゼは日本で成功した逆転の発想が海外でも通用するチャンスと考えました。日本で生産した商品を瞬間冷凍して輸出し、現地で解凍・販売するシンプルな方法を考案したのです。先ず、2014年秋にシンガポールでテストマーケティングを1週間行ったところ、想像以上の客が訪れました。そして、2015年4月にシンガポールに海外1号店をオープン。これを皮切りに、台湾・マレーシア・中国・UAE・香港・タイ・インドネシア・ベトナムに進出し、6年間で海外8か国に合計90店舗を展開するまでになりました。
更に、現地生産も増やしていく方針で、インドネシアの工場完成に続き、ベトナムにも工場を建設する計画となっています。
海外では、日本国内で採用している郊外型戦略ではなく、市内の百貨店やショッピングモールに展開しています。日本品質の美味しいお菓子をリーズナブルに提供することで、東南アジアの中産階級に大人気となっています。
シャトレーゼの海外進出成功の鍵
「儲けようと思うと儲からないんです。儲けようと思わないでお客さまが喜ぶことをしてシャトレーゼのファンを作れたら儲かるんです。いかに"強烈なファン"を作るかが我々の仕事なんです」 (齊藤会長)
圧倒的な安さを可能にするファームファクトリー
シャトレーゼが創業以来こだわっているのは、「圧倒的な安さ」。これを可能にしたのには、ファームファクトリーです。更に、日本では郊外型出店により、コストを抑えることで安さを維持してきました。一方、海外では小さな店舗でショッピングモールに出店することで初期投資を低くおさえています。海外の価格は、日本から輸送しているにもかかわらず、日本の価格とほぼ同額です。空輸した上で、海外で同額で売るということは実際にはとても難しく、それを実現できるシャトレーゼの体質は高い評価を受けています。
そして、添加物を極力使わず、品質管理を厳しく行い、契約農家から新鮮な牛乳、卵、小豆やフルーツなどを直接仕入れています。更に、オートメーション化による衛生的な製造を行い、素材にこだわった日本の品質「安全な美味しいお菓子」を売ることで差別化を図っています。
強烈なファンを獲得する宣伝戦略
“強烈なファン”を獲得するための取り組みは、宣伝戦略にも現れています。「商品がよければ広告はいらない」と、創業以来重視してきたのは「口コミ」です。それゆえ、テレビCMなどの宣伝はほとんど行っていません。
一方、力を入れているのはSNSです。ツイッターでスイーツの写真をつけて商品の投稿をほぼ毎日行っています。その結果、日本での公式アカウントのフォロワー数は35万人。明治やブルボンといった大手菓子メーカーを10万フォロワーも上回っています。
このSNSによる口コミは、SNSを多用する東南アジアでも大変効果的です。一例として、シンガポールで大人気になったシャトレーゼをSNSでみた東南アジア各国から、フランチャイズの申し込みが沢山舞い混みました。これをきっかけに、急速に東南アジアに展開することができたのです。
「われわれがやってきたことをそのまま海外でやれば、現地の人に非常に喜んでもらえると思っている。ハイイメージで、しかもローコストでやっていく。シャトレーゼの今の戦略を海外で試すちょうどいいタイミングで、『世界のシャトレーゼ』になるような形で推し進めていきたい」(齊藤会長)
まとめ|シャトレーゼの海外進出成功の秘訣
海外に進出する際に、日本で成功した逆転の発想で築いた商習慣をそのまま海外に持ち込んで成功しているのがシャトレーゼです。これは、日本の味と品質が海外でもそのまま通じるという自信があってのことです。この自信は、本格的進出の前にテストマーケティングを行ったことで得られた実感です。
シャトレーゼは、日本国内で競争相手を無くすユニークな戦略で急成長した会社です。そして、同じく競争相手の無い海外で、その戦略を変えることなく、「メイドイン・ジャパン」の味と品質を日本と同じ低価格で売り出した、大変ユニークな成功例です。
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【この記事を書いた人】
濱田幸子
20年以上世界4大会計事務所の1つアーンストアンドヤング(EY)のジャカルタ事務所のエグゼキュティブダイレクターとして、ジャパンデスクを率い、日系企業にアドバイザリーサービスを提供。またジャカルタジャパンクラブで、税務・会計カウンセラー、及び課税委員会の専門員を務め、日系企業の税務問題に関わってきた。現在は日本在住。海外滞在歴は30年、渡航国はアジア、欧州、北米の38か国、480都市以上に及ぶ。 国際基督教大学大学卒。英国マンチェスタービジネススクールでMBA取得。
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