この記事は2020年11月30日に書かれました。
少子高齢化が進む日本、国内マーケットが伸び悩む中、海外マーケットに活路を見い出そうとする企業は多いことでしょう。しかし、海外進出は資金だけでなく、時間、労力など様々な面からの大きな投資を伴います。海外進出は、まさに社運をかけた投資です。どうしたら成功するのでしょう。成功の鍵を考えていきましょう。
海外進出の目的は、基本的には2つです。国外市場の開拓、または製造拠点を求めることです。その目的の観点から海外進出のメリットとデメリットを今回はみていきたいと思います。
①海外進出のメリット
1) 大きな市場の開拓
2019年6月に国連の報告書によると、世界の人口は2019年の77憶人から、2050年には97憶人(26%増)、2100年には110憶人(42%増)に推移していくと予測されています。増加すると推測されている国々は、インド、パキスタン、アフリカ諸国、東南アジア諸国、そして米国です。
アジア諸国では、法定賃金の引き上げが続いていて、タイ、ベトナム、インドネシアやカンボジアといった東南アジア諸国において、最低賃金が毎年上昇しています。 これによって、人口の増加にともなう生産年齢人口の増加に加え、最低賃金の上昇に伴う消費購買力が向上しています。
このような状況の中で、多くの日本企業が、縮小する日本市場に代わって、拡大する市場をもつアジア諸国で販路拡大を目指すことは自然な動きです。
2) 生産コスト削減
■人件費の削減
日本と比較して、発展途上国の人件費の安さは魅力的です。 アジア各国の最低賃金は上昇を続けていますが、アジア各国と比較した場合は、依然日本の最低賃金は高いので、単純に考えると、これらの発展途上国に進出した場合、日本国内より人件費を低く抑えることが可能です。
■原材料の調達コストの削減
産業によりますが、原材料となる鉱物資源や農産物が豊富にある国に進出することで、日本国内よりも現地でより安く調達できます。
■税制優遇
東南アジアには外資誘致のために税制優遇があり、また東南アジア諸国連合(ASEAN)自由貿易地域( AFTA)の恩恵として、域内ではほぼ関税が撤廃させれていますので、域内貿易を利用することによって、コストがさがります。
3) 取引先企業の海外進出に追従
取引先企業が海外進出するため、これに追従する形で海外進出を果たすという事例もあります。もともと海外進出する計画はなかったにも関わらず、取引先企業からの要請により、その関係維持のために、海外進出をする場合です。これは取引先を開拓しなくてもよいというメリットがありますが、このような海外進出の際は、自社にとって採算がとれるのかについて慎重に検討する必要があります。
4)市場との距離の近さ
■納期の短縮:競争相手が先に進出したため、競争相手より納期が遅くなり、輸出売上がへったため、競争のために、進出する必要となる場合もあります。
■現地発の新しい着想:日本と海外では、文化や思想・趣味趣向などが大きく異なります。海外進出により現地で製品を開発すると、日本ではできなかった着想やアイデアが生まれることがあり、その国にあった商品の開発ができます。例えば:食べ物に関しては、嗜好が違いますので、現地で商品開発することで、売れる商品が開発できます。
②海外進出のデメリット
それではデメリットは何でしょうか。
1) 為替レートの変動
発展途上国や新興国での海外進出では、政治・経済の変化により証券市場・為替市場が混乱し為替が急激に変動するというリスクがあります。為替レートが変動すると、輸入する原料や商品の価格が、現地通貨で大きく変わり、いきなり黒字決算予定が赤字決算となることも多々あります。たとえば輸入する原料が、為替変動で大きく変わった場合、その原料高を販売価格にすぐに反映できることはありません。消費者が受け入れられる値上げの幅には限界があるからです。
2)政治リスク
発展途上国では、政治情勢が不安定ということがよくあります。いきなりテロやデモが勃発するというようなこともありますし、政策が変更されて輸入できていたものが急にできなくなるというようなこともあります。
3)言語や文化、商習慣の違い
言語の違いはもちろんのこと、その国独自の文化(宗教なども含む)や商習慣についての理解がないことによって、様々なトラブルが発生します。
■人材の確保、育成、労務管理
その国の伝統や宗教など文化・価値観などを理解しなければ、信頼関係を築くことは難しいため、よいコミュニケーションが従業員ととれないため、人材の確保、育成ができず、また労務管理がうまくできないケースもよくあります。
■商談や知名度の確立の難しさ
商談においても、商習慣を理解していなければ、うまくまとまりませんし、文化を理解することによって、顧客のニーズにあったマーケティングをすることが可能です。
4) 法制度や規則の複雑さ、不明瞭さ
発展途上国では法制度がよく変更となるため、情報をよくとれるようにし、法制度の変化を理解し、柔軟に対応できる体制をつるく必要があります。
③海外進出を成功させるには?
海外進出のメリットとデメリットの両方を理解した上で、進出目的をしっかりと設定し、それを基に事前調査をし、事業計画を立てなければなりません。海外進出の成功の鍵は、メリットをよりうまく活用できるように計画をたて、デメリットをどのようにコントロールしていくか考えた上で計画するということです。メリットだけをみての事業計画は薔薇色なものとなるかもしれませんが、リスクをみていない計画は実現が難しいものとなります。
次回はデメリット(課題)への取り組みを取り上げます。
【この記事を書いた人】
濱田幸子
20年以上世界4大会計事務所の1つアーンストアンドヤング(EY)のジャカルタ事務所のエグゼキュティブダイレクターとして、ジャパンデスクを率い、日系企業にアドバイザリーサービスを提供。またジャカルタジャパンクラブで、税務・会計カウンセラー、及び課税委員会の専門員を務め、日系企業の税務問題に関わってきた。現在は日本在住。海外滞在歴は30年、渡航国はアジア、欧州、北米の38か国、480都市以上に及ぶ。 国際基督教大学大学卒。英国マンチェスタービジネススクールでMBA取得。
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2020年 12月 19日
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